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プロの製パン技術を徹底解説!ルヴァンの誤解から美しい編みパンの秘訣まで
製菓・製パン技術
製菓・製パン技術


倉石 匡啓
株式会社丸冨士 代表取締役社長
製菓・製パン業界の経営戦略、事業開発、地域密着型ビジネスモデルの構築
1988年、長野県生まれ。東京の大学を卒業後、家業である株式会社丸冨士に就職し、28歳で三代目代表取締役に就任。製菓・製パン業界において長年の経験を持ち、地域に根ざした事業展開と食文化の発展に尽力している。
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目次
「お店のような美味しいパンが焼きたい!」 「バゲットがうまく膨らまない…」 「自分で作ったルヴァン(発酵種)は、どうも酸っぱくなってしまう…」
パン作りは奥深く、多くの人がこうした悩みに直面します。美味しいパンを焼くためには、単にレシピをなぞるだけでなく、生地が今どのような状態にあるのか、そして「なぜ」その作業を行うのかを理解する「製パン技術」の知識が不可欠です。
今回は、プロの製パン講習会で語られた、パンのクオリティを格段に引き上げるための専門的なノウハウや知識を、詳しく解説していきます。
ルヴァンリキッドの科学:酸味の誤解と「熟成」の力
パンの風味を豊かにするために「ルヴァンリキッド(液状の発酵種)」を取り入れている方も多いでしょう。しかし、多くの人が「ルヴァン=酸っぱいもの」という誤解をしています。講習会では、このルヴァンに関する非常に重要な知識が共有されました。
ルヴァンの本当の役割:発酵力 vs 熟成力
まず、市販のイースト(酵母)とルヴァンリキッドは、その目的が異なります。
市販のイースト(生イーストなど) 純粋培養された非常に強力な酵母(サッカロミセス・セレビシエ)です。1gあたり10の10乗個もの酵母が含まれており、パンを膨らませる「発酵力」が主な役割です。 そのため、配合が1%違うだけで(例:3%と4%)、パンの出来上がりが大きく変わってしまいます。
ルヴァンリキッド 酵母の数は1gあたり10の7乗個程度と、イーストの約1000分の1です。 そのため、パンを膨らませる力は市販のイーストに任せ、ルヴァンリキッドの主な役割は「生地の熟成を補うこと」にあります。
ルヴァンリキッドを10%入れるか15%入れるかという違いは、発酵力に大きな影響を与えるものではなく、パンの食感や風味、生地の熟成度合いをどうコントロールしたいか、という「パン職人の考え方」で決まります。 決まったルールはありません。
「酸っぱいパン」の原因は量ではなく「管理」だった
初めてルヴァン種を試食した人は、そのpHの低さ(酸性であること)から「パンが酸っぱくなりませんか?」と心配することがあります。しかし、講習会で試食されたルヴァンは、適切に管理されているためツンとした酸味(酢酸)がほとんどなく、むしろヨーグルトのように爽やかな風味でした。
伊藤氏が目指すのはこの「pHは低い(乳酸による酸性)が、不快な酸味はない」フレッシュな状態です。この状態の種が、生地の熟成を適切に助け、豊かな風味を引き出すのです。
もしご自身のルヴァンが過度に酸っぱい(特にツンとくる酢酸臭がする)場合、それは配合量(%)の問題ではなく、種の管理方法(リフレッシュの頻度や温度)が原因である可能性が高いのです。
講習会では「15%のルヴァンをオーバーナイトで使ったら酸っぱくなりませんか?」という質問が上がりました。
講師の回答は明快です。 「(適切に管理された)フレッシュな種を使っている限り、15%をオーバーナイトで使っても酸味は出ません。 もし酸っぱいパンを作りたいのであれば、あえて酢酸が多く出るように(例えば低温で長時間発酵させるなど)種を管理する方法もありますが、私たちが目指す食パンや菓子パンにも使えるようなオールマイティなルヴァンは、酸味を出さずに使うものです。」
初めてルヴァン種を試食した人は、そのpHの低さ(酸性であること)から「パンが酸っぱくなりませんか?」と心配することがあります。しかし、講習会で試食されたルヴァンは、適切に管理されているためツンとした酸味(酢酸)がほとんどなく、むしろヨーグルトのように爽やかな風味でした。
伊藤氏が目指すのはこの「pHは低い(乳酸による酸性)が、不快な酸味はない」フレッシュな状態です。この状態の種が、生地の熟成を適切に助け、豊かな風味を引き出すのです。
もしご自身のルヴァンが過度に酸っぱい(特にツンとくる酢酸臭がする)場合、それは配合量(%)の問題ではなく、種の管理方法(リフレッシュの頻度や温度)が原因である可能性が高いのです。
ルヴァンとイーストの関係性
講習会では、ルヴァンリキッドは市販のイーストと併用されていました。 これは、パンを膨らませる「発酵」はイーストに任せ、ルヴァンリキッドは「生地の熟成を補う」役割に特化させるためです。 このように役割分担をさせることで、両方のメリットを最大限に引き出すことができます。
プロの生地(ドゥ)の扱い方:なぜ「いじめない」のか
次に、バゲットやバタールといったハード系のパンに関する技術です。講習会で使用されたバゲット生地は、「1時間のパンチ後、30分休ませた」だけの状態でした。
「発酵不足」に見える生地が「窯伸び」を生む
この生地を見て、多くの人は「発酵不足だ」と感じるかもしれません。 しかし、このルヴァンを使ったレシピでは、これが正解です。もしこれ以上発酵させてしまうと、それはもう「違うパンになってしまう」と講師は語ります。
この生地は、ミキシングの段階でしっかりとグルテンが形成されています。そのため、その後の工程(分割・成形)で「生地をいじめない(過度に力を加えない)」ことが非常に重要です。
もし生地を強く扱いすぎると、パンの食感が硬く、引きが強くなってしまいます(「引きが強いパン」)。 生地を優しく扱うことで、最終的に窯の中で力強く膨らむ(「窯でガッと伸びます」)バゲットになるのです。
オートリーズの応用:ルヴァン投入で作業効率を上げる
通常、オートリーズ(水と粉だけを先に混ぜて寝かせる製法)は、粉と水だけで行います。 しかし、今回の講習会では、このオートリーズの段階でルヴァンリキッドも加えていました。
これは「生地の熟成を促進させるため」です。 例えば、通常ならフロアタイム(一次発酵)に3時間かかるような生地でも、ルヴァンをオートリーズで加えることで、わずか90分(30分捏ねて、パンチ、さらに30分)で同等以上の熟成状態に持っていくことができるのです。
これは、パン屋さんの現場において「作業効率を上げ、なおかつパンも美味しくする」ための非常に合理的なテクニックです。
後塩法(塩を後から入れる技術)とその欠点
バゲットの仕込みでは、オートリーズの生地に後から塩とイーストを加えていました。 このように塩を後から入れる製法を「後塩法(あとじおほう)」と呼びます。 塩にはグルテンを引き締める性質があるため、先に塩を抜いて生地を緩やかにつなげ、最後に塩で引き締めるという伝統的な手法です。
ただし、この後塩法には「塩を入れ忘れる」という大きな欠点があると講師は笑います。 このようなヒューマンエラーを防ぐために、最初から塩を入れる製法が主流になった背景もあるようです。
オールイン法 vs 湯種法:目的に合わせた生地作りの選択
講習会では、ツオップ(編みパン)と食パンで、対照的な二つの製法が紹介されました。
ツオップの「オールイン法」:なぜ油脂を最初から入れるのか
通常、食パンなどではグルテンの形成を阻害しないよう、油脂(バターなど)はミキシングの後半で投入します。 しかし、ツオップの仕込みでは「オールイン法」が採用され、油脂を含むすべての材料を最初から一緒に入れていました。
なぜでしょうか? それは、ツオップに求める食感が「窯伸び」ではなく「口どけの良さ」だからです。 油脂を最初から入れることで、グルテンの進展が適度に抑えられ、ボリュームは出にくくなる代わりに、食感はしっかりありながらも口の中でスッと溶けるような、独特の口どけが生まれるのです。
湯種食パンの「湯種法」:もっちり感と甘みを引き出す
一方、食パンでは「湯種(ゆだね)」が使われました。 これは小麦粉の一部を熱湯で捏ねてα化(糊化)させたものです。 この湯種を生地に加えることで、パンにもっちりとした食感と、デンプンが糖化することによる自然で優しい甘みが加わります。
このように、同じパンでも「どのような食感を目指すか」によって、材料の投入タイミングや製法を使い分けることが重要です。
冷凍生地とスコーン:「見えない」技術が品質を支える
講習会では、パン屋さんの日常業務を支える実践的な技術も紹介されました。
冷凍生地の「老化」を防ぐルヴァンの力
パン屋さんでは、作業効率化のために冷凍生地を活用することがあります。しかし、冷凍生地はベンチタイムやフロアタイムを省略することが多いため、生地の熟成が不足しがちです。 その結果、焼いた翌日には生地がボソボソになるなど、老化が早いという欠点がありました。
ここでもルヴァンリキッドが活躍します。 生地にルヴァンリキッドを10%ほど添加すると、乳酸菌が小麦粉のタンパク質を軟化させ、不足しがちな「生地の熟成」を補ってくれます。 これにより、冷凍生地であっても、焼いた翌日でも美味しいパンを提供することが可能になります。
スコーンの「マスキング効果」
スコーンには通常、発酵種は使いません。 しかし、講習会ではあえてルヴァンリキッドが加えられていました。 その目的は、ベーキングパウダーや重曹が持つ特有の「嫌な匂い」を、ルヴァンの力で消す「マスキング効果」を得るためです。 さらに、薄力粉だけでなく強力粉(andJ(アンドジェイ))を半量配合し、ルヴァンを加えることで、サクッと、そしてホロッと崩れるような上質な食感を生み出していました。
編みパンの秘訣:冷蔵庫で「締める」
前述のツオップ(編みパン)の話に戻りますが、この「一度冷やす」という技術は、生地の編み目を美しく保つために非常に効果的です。 成形後に一度冷蔵庫で生地を締めることで、その後のホイロ(最終発酵)や焼成を経ても編み目が崩れず、くっきりと美しい模様が焼き上がります。
まとめ:美味しいパンは「なぜ」の理解から
今回のプロ向け講習会から見えてきた「美味しいパンの焼き方」とは、単一の「正解」を求めることではなく、「なぜその作業をするのか」という原理を深く理解することでした。
ルヴァンは熟成のため:発酵力はイーストに任せ、ルヴァンで風味と食感をコントロールする。
生地はいじめない:ミキシングでグルテンを作ったら、あとは優しく扱い、窯伸びを引き出す。
編みパンは一度冷やす:美しい模様を出すために、生地を締める工程を加える。
これらの技術は、一見すると些細なことかもしれませんが、最終的なパンの出来上がりを大きく左右します。ぜひ、これらのプロの「製パン技術」をご自身のパン作りに取り入れ、ワンランク上の美味しいパンを目指してみてください。
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